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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)10515号 判決

一 原告モダナが本件特許権を取得し、原告大岩に対して本件専用実施権を設定したこと(請求の原因一の事実)及び本件特許出願の願書に添附した明細書の特許請求の範囲の欄には、原告主張のとおりの記載があること(同二の事実)は、いずれも当事者間に争いがなく、また、本件発明の構成に欠くことのできない事項が原告主張の三要件からなること(同三2の主張)についても、当事者間に見解の一致がみられ、当裁判所もそれを正当と考える。

二 そこで、本件発明の構成要件の一つと解すべき、壁要素の上方縁部保持装置について、それがいかなる構造をもつものでなければならないか、をまず検討の対象とする。

当事者間に争いのない前記本件特許請求の範囲の記載を中心に、成立に争いのない甲第二号証(本件公報)によつて明らかな前記明細書のその余の記載をあわせ考えれば、次のような認定判断をすることができる。

1 本件発明は、支持装置の中心に回転自在に取付けられた垂直ポストを備え、該ポストには垂直な壁要素が容易に着脱できるように設けられている陳列スタンドに関するものである。

従来公知のこの種陳列スタンドにおいては、壁要素は、全体として垂直ポストとともに自由に回転し、また、個々の壁要素が、隣接する他の壁要素に対して接近する方向にも、逆に遠ざかる方向にも回動する(俗な言葉を用いれば、垂直ポストに対してぐらつく)ようになつており、かかる壁要素を安定させるために、壁要素間にたな要素を配置する方法が採られていた。そのため、かかる公知の陳列スタンドには、次のような欠点があつた。すなわち、(一)壁要素を十分に安定させるためには、すべての壁要素の間に全周にわたつて、たな要素を設ける必要があつた。もしある二つの壁要素の間にたな要素を設けないと、それら二つの壁要素は互いに接近する方向に自然に回動してしまい、他の部分のたな要素がはずれて落下することがある。また、(二)全周にわたつてたな要素を設けないと、壁要素が自由に回動してしまうため、各二つの壁要素によつて形成される扇形柱状の空間に、スキー、釣竿等壁要素によつて支持されるべき長尺物を陳列することは不可能である。

本件発明は、壁要素間にたな要素を配置すること以外の方法によつて、壁要素を安定させようと考え、これによつて前記欠点を克服することを目的とするものであり、その具体的解決手段として、保持装置によつて壁要素の下方縁部及び上方縁部を固定する方法を採用したのである。

もつとも、前記明細書(本件公報)の中には、壁要素の間にたな要素を設けるにあたり、特定構造のブラケツトを用いることとし、これによつて、安定で丈夫な陳列スタンドを簡単に組立てうるとの効果をあげることも、本件発明の少なくとも一部を構成するとの趣旨の記載部分(本件公報第2欄末行ないし第3欄第3行、第3欄第38行ないし第4欄第20行、第7欄第28行ないし第8欄第31行)が散見されるが、本件特許請求の範囲の欄には、ブラケツトにつき言及するところは全くないのであるから、特許法第七〇条の規定の趣旨にかんがみ、特定構造のブラケツト、ないしは、壁要素の間にたな要素を設けるにあたりブラケツトを用いることをもつて、本件発明(の一部)を構成するものということはできない(なお、前記明細書(本件公報)には、第17図ないし第21図に示されている陳列スタンドが本件発明の実施例であると記載されているが、それらにおいては、壁要素の下方縁部及び上方縁部を保持装置によつて固定する方法が採られていない点からみて、右陳列スタンドが本件発明の実施例であるとは到底いえない)。

2 本件発明は、ぐらつく壁要素を安定させるために、保持装置によつて壁要素の下方縁部及び上方縁部を固定する方法を採用し、従来壁要素安定化の機能をも負わされていたたな要素を、その負担から開放して、専ら陳列すべき商品を載置するという本来の機能に復せしめた結果、従来この種陳列スタンドが持つていた欠点を克服し、(一)たな要素は、すべての壁要素の間に全周にわたつて設ける必要はなく、小さい商品を載置するため所望に応じて任意に設けうる部材にすぎないこととなり、さらにはこれを全く設けないことも可能となり、したがつて、(二)各二つの壁要素によつて形成される扇形柱状の空間に、スキー、釣竿等の長尺物(ことに、第8図に示すように、壁要素の最上部よりもさらに丈の長い物)を陳列することもできるようになつた。

3 そうして、壁要素の上方縁部保持装置の実施例としては、下面にスロツトを有する腕が掲げられ、また、下方縁部保持装置の実施例としては、上面に溝(又はこれと均等の構造)を有する底部板及び扇状の板部分が掲げられているのであり、同一の構造ないし形状であつて、上方縁部保持装置としても、下方縁部保持装置としても使用しうる実施例は、開示されていない。このことは、同じく壁要素の縁部保持装置といい、壁要素の縁部を保持することによつて壁要素を固定する機能を営む点において同一であつても、上方縁部保持装置と下方縁部保持装置とでは、それが設置される場所が異なるところから、同一の構造ないし形状をとりえないことを示唆するものというべきである。これを上方縁部保持装置についてみれば、下方縁部保持装置の実施例として掲げられる前記底部板及び扇状の板部分と同一の構造をとることはできないものといわなければならない。けだし、上方縁部の固定のために、前記底部板又は扇状の板部分と同一構造のものを用いることは、本件発明の前記目的及び効果と矛盾するからである。

4 これを要するに、本件発明において、壁要素の上方縁部保持装置がいかなる構造を備えなければならないかにつき、一般的、積極的に定義することは不可能でもあり、またその必要もないが、少なくとも、たな要素や前記底部板及び扇状の板部分のように、二つの壁要素によつて形成される扇形柱状の空間を上下に分割する構成のものであつてはならないということはできる。

三 そうすると、被告製品における最上部のたな要素5が、本件発明における上方縁部保持装置に該当しないことは明らかであり、他にこれに該当するものも見当らないから、被告製品は、少なくともこの要件を欠き、本件発明の技術的範囲に属しないものといわなければならない。

四 かくして、原告らの本訴請求は、進んでその余の点につき判断するまでもなく、いずれも理由がないから、これを棄却することとする。

〔編註〕 本件に関する目録は左のとおりである。

第一目録

別紙図面及びその説明書記載の回転できる陳列スタンド

商品名 サイクルゴンドラ

型式名 RG―四三A、RG―五五A及びRG―四三B、RG―五五B

別紙図面第一乃至第一四図は被告製品である回転陳列スタンド(サイクルゴンドラ)の構造を示し、第一図は斜視図、第二図は平面図、第三図は壁要素部分、第四図、第五図はそれぞれ対となつた二種類のブラケツト部分、第六図はブラケツト取付断面図、第七図はたな板を示す図面であり、さらに、

第八図は垂直ポストの平面図、第九図は穴を省略して表わす壁要素の側面図、第一〇図乃至第一二図は第九図の(a)(b)及び(c)部分の拡大図、第一三図は垂直ポスト壁要素の一つを取付けた状態を表わす平面図、第一四図は第一三図の正面図である。

右各図において支持腕(1)の自由端に車輪(2)を有し、十文字に交叉した支持腕(1)より成る支持装置の中心に軸を設け、支持装置に設けられた中心軸に回転できるように嵌着される垂直ポスト(3)は、縦方向に細長いスロツトが配置され、該スロツトの両側に縦方向に走る溝(21)を形成するひれ部材(22)が一体に形成されている。

壁要素(4)は、円形及び細長方形の穴が縦方向に整列して並べられたシートより成り、その一側には垂直ポスト(3)の右スロツトに着脱自在に係合するフツク(8)が設けられると共に、フツク(8)の上部位置および最下部の三箇所に、垂直ポスト(3)の溝(21)を形成するひれ部材(22)の内側に位置する両側方向に屈曲された切込突起(23)が設けられ、垂直ポスト(3)に対する壁要素(4)の取付けは、垂直ポスト(3)のスロツトに壁要素(4)のフツク(8)が係合されて壁要素(4)は垂直方向に支持され、垂直ポスト(3)のまわりに四枚の垂直壁要素(4)が取付けられる。

壁要素(4)の上方縁部及び下方縁部を含むシートの所望の高さの細長方形の穴に対し、垂直部分(10)、水平部分(11)を有する左右対称のブラケツト対(9)、(9)´あるいはこれより高さが壁要素の細長方形の孔一段分異なる垂直部分(12)および水平部分(13)を有するブラケツト対(16)、(16)´の端部に設けたフツク(14)(あるいは(14)´)及び切欠部(15)(あるいは(15)´)によりこれらブラケツト(9)、(9)´または(16)、(16)´を取付け、この際互に相隣接する壁要素(4)に対し例えば高さの高いブラケツト(9)、(9)´を取付け、その隣の四半部の両壁要素には高さの低いブラケツト(16)、(16)´というように高低を交互に取付ける。

さらにこれらブラケツトの奥の方に設けたフツク(17)と手前に設けた垂直爪(18)とにたな要素(5)の下部奥側に設けた屈曲片(19)と手前側の嵌合孔(20)をそれぞれ嵌着してたな要素(5)を取付ける。

このように所望の高さにたな要素(5)を取付け、またこれらたな要素と多少形状が異なるが、取付け、組立て上の構造は全く同じな底板(6)を全く同様にブラケツトを介して壁要素に取付ける。

かく構成することにより壁要素(4)の上方縁部及び下方縁部はそれぞれ固定され所望の角度位置に維持される。

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